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プロフィール

高沢英子

Author:高沢英子
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 伊賀上野出身
 京都大学文学部フランス文学科卒業

 メイの会(本を読む会)代表。
 元「VIKING]「白描」詩誌「鳥」同人

著書:「アムゼルの啼く街」(1985年 芸立出版) 
「京の路地を歩く」 (2009年 未知谷)
   「審判の森」    (2015年 未知谷)     

共著: 韓日会話教本「金氏一家の日本旅行」(2007年韓国学士院)
 現在メールマガジン「オルタ」にエッセーなど寄稿。

 

東京都 千代田区在住


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オーストラリアで、独自の童話絵本が出始めたときも、どちらかといえばこの土地ではおとなしい種類の動物たちが、移民のこどもたちが、それまで慣れ親しんできた家兎と混じりあい、いちばん可憐な野生の花々が、薄暗い森のなかや、草の生い茂る丘のうえで菫の花々に混じって群がり咲いている、といったものだった。そして、優雅にドレスアップしたヨーロッパ風の仙女が、かれらの好みの家のなかに配されていた。けれども、灰緑色のブッシュと、そこにある荒々しく引っかかれたような傷だらけの樹皮のユーカリや、小さな乾いた花々や、褐色の小川、ざらざらしたブッシュの小道は、依然として、大自然の神秘のなかに置き去りにされたままだった。
一人の女性がそれらすべてを変えた。
同じ時期、ベアトリス・ポッターや、ケネス・グラハムが彼らの観察したイギリスの田舎を紹介し、野原や垣根に顔を覗かせる動物たちをキャラクターにして描いていたときに、世界の別の側にいた一人の若い芸術家が、オーストラリアの土着の動物たちを観察し、かれらの生き生きした姿が、物語のキャラクターとしての力を持っていることを、理解していたのである。
 けれども、より重要なことは、彼女の心のなかに徐々に芽生え育まれていった、豊かな土着の神話の中で実を結んだオーストラリアのブッツシュランドに対するユニークな解答だった。
 このアーテイストがメイ・ギブスである。彼女の創造物たち、ユーカリの実のサングルポットとカッドゥルパイが作り上げたブッシュの森の世界、彼らのいとこのビブとバブ、他にも別のユーカリの実や、野生の花の蕾などなど;荒削りなタッチで描かれた、コアラやポッサムや、巨大蟻やカブトムシたちと親切な年寄りとかげや、邪悪な蛇、恐ろしげなむさくるしい姿の意地悪で残酷なバンクシャー男たち。彼女のユニークなビジヨンは、当時のオーストラリア移民の人々の心とイマジネーシヨンをすっかり魅惑し、捉えたので、彼女の描くブッツシュべービーたちーちいちゃなまるまる肥った裸のお尻、ユーカリの実の帽子や、ぼろぼろに引き千切れたような野生の花びらののスカートだの大きな青い瞳―はすっかり国民的なシンボルになり;「デッディボーン」といったようなガムナッツ語は、日常語の仲間入りを果したのだった。どの年代の大人たちも、ブッツシュの森に足を踏み入れた途端、このシリーズを思い出して微笑を浮かべ、一目バンクシャートゥリーをみたとたん、畏怖の思いを抱かずにいられなくなったのである。
大人にも子供たちにも同じように、メイ・ギブスのマジックは、ブッシュの森が、まるで彼らの玄関先にあるかのような身近さをおぼえさせることになった。
メイは、まず、そのキャリアを、他のひとの仕事のイラストを描くことで始めた。最初のうちは、オーストラリアの小道具をあしらいながら、魅惑的ではあるが、ありふれたフェアリーランドの幻想的な光景を描いていたのが、徐々にそれは、純粋なイギリス風のシーンにとってかわるようになっていった。
ゆっくりと完全なオーストラリアのブッツシュのフェアリーランドが、彼女のイマジネーションの中で大きく育ってゆき、それらの生きものたちが、彼女のイラストのなかに、自発的に招かれざる客のように滑り込んできはじめる。ガムナッツの先駆者たちは、まず、1913年に描かれたイラストのなかに見ることができる。翌年、ガムナッツと同じように、野生の花の蕾が象られたイラストの本の栞や若干の本のカヴァーが世に出た。
 軍隊(訳註1)に送られるはがきのシリーズもあったーいまでは貴重なコレクターの品目になっているがー当時は前線でよく見られた光景であった。フランスの泥にまみれた壕のなかや、パレスチナの太陽に灼かれた渇いた大地のうえなどで、戦いで疲労困憊した兵士たちは、赤十字から届いた小包を開き、手編みのソックスや、ウールの帽子と共に、メイ・ギブスのガムナッツのひとりからの可愛いメッセージをよろこんで受取ったのである。

我らはユーカリの実軍団
 さあ戦いに行きましょう
  (ユーカリで、すべてを打ち砕き)          10;7

やがて本の出版が始まる。「ユーカリの実と花のべービーたち」というのが最初のオーストラリアでの本のタイトルである。メイはイラストと文章の両方を書き、その批評的反響は、驚くべきものだった。
 (訳注1:1914年 第1次世界大戦勃発 八月オーストラリアはロシヤに宣戦布告)
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