オルタのひろば⒗号 2019年㋇20日
『メイ・ギオブス/ガムナッツベイビーの仲間たち】 高沢英子
⑸サングルポットとカッドゥルパイの旅立ち
成長した二人のユーカリ坊やの義兄弟サングルポットとカッドゥルパイは、やがて自分たちを取り巻く森の世界について考えをめぐらし始めます。年取ったワライカワセミじいさんが、人間の世界には、悪い奴もいればいい人も同じくらいいる、と云っていたけど、それはほんとうなんだろうか?
ふたりは、経験を積んでいるらしい洒落者のブルー帽子のミソサザイにも訊いてみました。
「ほんとだよ!」とミソサザイはきっぱり云いました。
「ぼくは人間が住んでいる遠い町のお屋敷に、いくらか知り合いがいるからよく知ってる。その町の名はシドニーというんだ」
「ぼく人間に会いたいなあ」とサングルポットは思わず呟きました。
「ずっと遠いところにいるんだ」とカッドルパイが付け加えます。
暑い夏の夜、父さんのいびきが聞こえないくらいセミが喧しく啼き立てているすきに、サングルポットはそっとベットから滑り降りて外に出てゆこうとしました。「どこへ行くの?」気が付いたカッドゥルパイが小声で訊き「人間を見に行くのさ」とサングルポットが囁く。
カッドゥルパイは、すぐいっしょに行こうと決め二人は旅だちました。
森の中を夜通し歩いて夜明けに広い通りに出ると、からの鳥の巣を見つけ、鳥の羽を体に巻き付けて変装、誰にも何ものかわからないとほくそ笑んでどんどん歩いていきました。
それからが大変です。夜になって疲れ果てて木の洞で眠っていたら、喰いしん坊のフクロウが、ネズミと間違えてサングルポットをつかんで、同じ喰いしん坊の妻に見つからないよう飛び去り、羽音で目を覚ましたカッドゥルパイが大泣きしながら追っかけたものの、フクロウはみるみる遠ざかってしまいます。
幸い間違いに気が付いたフクロウはサングルポットを蟻の巣穴に落として飛び去り、食べられずに済んだのですが、巣穴の蟻の子供たちは災難で、何匹かの子供がいきなり空から落っこちてきたユーカリ坊やに押しつぶされる、という不幸な目にあいます。
「ごめんなさい」サングルポットは涙を拭きながら謝りました。
「母さん蟻がなんていうだろう」
ところが母さん蟻は出かけていて、代わりに夜っぴて子守をしていたナースは疲れていたのと無責任なのとで、とくに慌てもせず、「いいのよ」とけろりとして「大丈夫、母さん蟻にはわからないわよ。300匹もいるんだから4ひきや5ひきいなくなっても、全然平気」なんてけろりとしてる、ちょっと残酷な話のおちになります。
けれどもここのナースは、悲しんでいるブッシュベービ―に心を動かされる親切心はありました。サングルポットがカッドゥルパイとはぐれてしまったことを泣きながら心配していると聞くと、近くで私の妹が花のレデイのお手伝いをしていて森のことにはくわしいから、行って訊いてみな、と教えてくれました。
サングルポットが、朝まだき,露でシャワーを浴びていた花たちのところにゆき事情を話すと、花たちは早速鳥たちに聞き込みをしてくれて、遠い道端でとほうにくれて泣いていたガムナッツ坊やを見た、というニュースが届き、一羽の鳥がサングルポットをかれのところまで背中に乗せて運んでくれ、ふたりは無事に合流できたんです。森のコミュニテイーの協力です。花たちにはもちろん、美しく親切な鳥さんにもサングルポットはこころから感謝しました。
「ありがとう、マダーム」
「私の名はクジャク鳩夫人というのよ」
「クジャク鳩夫人、ぼくたち何かお役に立つことありませんか」
「おや、そうお。あたしはあんたたちが来てあたしの卵を面倒見てくれたら大助かりよ。ちゃんとお礼もするわよ」
美しい羽根で着飾ったクジャク鳩夫人、実はかなりの遊び好き、サングルポットとカッドゥルパイは、彼女の頼みを聞いて、喜んで木の上にあるクジャク鳩夫人の巣にのぼり、夫人はいそいそ遊びに出かけてしまい、長い間帰ってきません。
鳥たちのなかにもネグレクトはあるのですね。卵はすっかり冷たくなっているし、坊やたちはそれをなんとか温めようと、いろいろ撫でまわしたり蔽いかぶさって上に坐ってみたりたりしているうちに卵は潰れてしまう、という始末。
「おお!どうしよう」慌てていると、そこへ大きなトカゲがやってきてどうしたんだい?と聞いてくれました。そこでわけをいうと
「なんだそんなことならわたしが同じような卵をみつけてきてあげるよ」と言ってさっと消えると、すぐどこで見つけたのか、かわいい卵を二つ運んできてくれました。なんともいいかげんな話ですが、かれらは忽ち仲良しになり、トカゲは奥さんに別れを告げて、3人いっしょに人間を見に行く旅をすることになります。
くりひろげられる物語は、ある程度擬人化され、人間社会の機微を織り込みつつも、オーストラリアの自然界の生きものたちの容赦ない厳しい生態をも描き出し、ほほえましく飾り気のない美しさとあたたかさのなかに、時として残酷、時として非情、時として荒唐無稽に展開します。
この物語の魅力は、それまで文明社会の生活に慣れ親しんできた人たちに、成熟した文明社会にない大自然に生きる生きものたちの生態を捉われない眼で描き出して見せつつ、勇気と好奇心に満ち、信じあい愛し合う二人のユーカリの実(ガムナッツ坊や)兄弟の素直で温かい心情や自然界の動物たちとくりひろげる子供らしい、くさぐさの冒険ばなしの
奇想天外の楽しさもさることながら、さらに作者のイラストの確かなデッサンによる、美しさ、楽しさ、面白さにもあったといえるでしょう。
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