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高沢英子

Author:高沢英子
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 伊賀上野出身
 京都大学文学部フランス文学科卒業

 メイの会(本を読む会)代表。
 元「VIKING]「白描」詩誌「鳥」同人

著書:「アムゼルの啼く街」(1985年 芸立出版) 
「京の路地を歩く」 (2009年 未知谷)
   「審判の森」    (2015年 未知谷)     

共著: 韓日会話教本「金氏一家の日本旅行」(2007年韓国学士院)
 現在メールマガジン「オルタ」にエッセーなど寄稿。

 

東京都 千代田区在住


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(4)ユーカリ坊やとブッシュの森の仲間たち
 さて、いよいよユーカリ坊やと森の仲間たちや、かれ等が繰り広げる多種多様な冒険のあらましを追ってみましょう。
 ドングリのような帽子をかぶった裸ん坊の双子のベイビー、サングルポットとカッドゥルパイは、もともと兄弟ではありません。しかし、あるハプニングで、とても親密な義兄弟となるという設定です。そしてふたり仲良くオーストラリア特有の灌木(ブッシュ)の森の探検の旅に出て、森に住むさまざまな生きものたちと愉快な交歓をくりひろげるというのがこの物語の始まりです。
 このそもそものはじまりから、メイの―すべての生きものたちはたがいに楽しく共存して生きてほしい―という願いが、こっそり忍ばされているように思います。
 それはハプニングといっても、ごくごくなんでもない森にありがちの、まさに自然のなせる風のいたずらからでした。
 生まれて数時間しか経っていない小さなユーカリの実カッドゥルパイは、ある日吹きつけてきた大風でお母さんの腕からもぎ離され、空高く舞い上がり、蜘蛛の巣に引っかかります。地面に落ちないで済んだとほっとしたのもつかの間、老眼の年寄鳥がコガネムシかなんかの幼虫と見まちがえ、あわや食べようとしているところを見たひとりの大人の木の実が、蛇が来たぞ!と叫んで追い払います。
 そしてこの親切な木の実はクモの巣の中で冷え切って泣いているベイビーを家に連れ帰るのですが、そこは実はもう一人のベイビー、サングルポットの家で、親切な木の実はサングルポットのお父さんだった、という話です。そして二人は忽ち仲良しになり、やがてイラストに見られるような大きくころころ肥った少年たちに成長します。
 これがそもそものはじまりですが、ある日、彼らの近所に一匹の賢い年寄のワライカワセミがやってくるのです。一帯の花々や木の実たちがみんな彼の話を聞きに集まるところから物語は動き始めます。
 さてこのワライカワセミの広く見てきたという見聞話のなかみは、主として「人間」という生きものについての知識でした。
 人間は風のように強く、川のように動きが早く、太陽のように強烈だ。といい、彼らは棒をこすり合わせて火を作り出す。まるで山火事のように、かれらは火が好きなんじゃ、オスの人間はそれを持ち歩いて鼻か煙を出し、鳥のように口笛を吹き、蛇のように邪悪で、たくさん皮を持っていて、しょっちゅう取り換えておる。皮を全部脱いだときの彼らは青い蛙みたいにみえるのさ、とざっとこんな風に語るというわけです。
 とにかくメイの童話作品の特徴は、それがけっしてただの思い付きで組み立てられたものではなく、自然の生きものたちの生態を的確にとらえ、人間世界にも当てはまるようなエピソードのかずかずの展開で、この地球で生き抜く知恵を学び、ともに共存してゆかねば、という作者自身の熱い理念がつねに込められていると感じられることです。イラストも写実的ながら、いつ見ても飽きない独特の風味をそなえています。
 なにげない楽しい遊びのなかにも容赦なく入って来る過酷な運命、でもそれを素直にうけいれ、たくましく生き抜いてゆく知恵。ときには豊かな人生経験や人間社会の仕組みが巧みに取り入れられているのが興味深い点です。エピソードのいくつかを、すこしづつ紹介できれば、と思います。
 (エッセイスト)
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