プロフィール

高沢英子

Author:高沢英子
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日本民主主義文学界会員。メイ・サートンの会代表。詩誌「鳥」同人。メールマガジンオルタ同人。

著書:「アムゼルの啼く街」芸立出版「京の路地を歩く」未知谷
 
俳句雑誌「芭蕉伊賀」、メールマガジン「オルタ」「民主文学」「婦民新聞」などに寄稿。

現在、難病の娘の家事手伝いと孫息子の育児支援中。 

東京都大田区在住。


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オーストラリアで、独自の童話絵本が出始めたときも、どちらかといえばこの土地ではおとなしい種類の動物たちが、移民のこどもたちが、それまで慣れ親しんできた家兎と混じりあい、いちばん可憐な野生の花々が、薄暗い森のなかや、草の生い茂る丘のうえで菫の花々に混じって群がり咲いている、といったものだった。そして、優雅にドレスアップしたヨーロッパ風の仙女が、かれらの好みの家のなかに配されていた。けれども、灰緑色のブッシュと、そこにある荒々しく引っかかれたような傷だらけの樹皮のユーカリや、小さな乾いた花々や、褐色の小川、ざらざらしたブッシュの小道は、依然として、大自然の神秘のなかに置き去りにされたままだった。
一人の女性がそれらすべてを変えた。
同じ時期、ベアトリス・ポッターや、ケネス・グラハムが彼らの観察したイギリスの田舎を紹介し、野原や垣根に顔を覗かせる動物たちをキャラクターにして描いていたときに、世界の別の側にいた一人の若い芸術家が、オーストラリアの土着の動物たちを観察し、かれらの生き生きした姿が、物語のキャラクターとしての力を持っていることを、理解していたのである。
 けれども、より重要なことは、彼女の心のなかに徐々に芽生え育まれていった、豊かな土着の神話の中で実を結んだオーストラリアのブッツシュランドに対するユニークな解答だった。
 このアーテイストがメイ・ギブスである。彼女の創造物たち、ユーカリの実のサングルポットとカッドゥルパイが作り上げたブッシュの森の世界、彼らのいとこのビブとバブ、他にも別のユーカリの実や、野生の花の蕾などなど;荒削りなタッチで描かれた、コアラやポッサムや、巨大蟻やカブトムシたちと親切な年寄りとかげや、邪悪な蛇、恐ろしげなむさくるしい姿の意地悪で残酷なバンクシャー男たち。彼女のユニークなビジヨンは、当時のオーストラリア移民の人々の心とイマジネーシヨンをすっかり魅惑し、捉えたので、彼女の描くブッツシュべービーたちーちいちゃなまるまる肥った裸のお尻、ユーカリの実の帽子や、ぼろぼろに引き千切れたような野生の花びらののスカートだの大きな青い瞳―はすっかり国民的なシンボルになり;「デッディボーン」といったようなガムナッツ語は、日常語の仲間入りを果したのだった。どの年代の大人たちも、ブッツシュの森に足を踏み入れた途端、このシリーズを思い出して微笑を浮かべ、一目バンクシャートゥリーをみたとたん、畏怖の思いを抱かずにいられなくなったのである。
大人にも子供たちにも同じように、メイ・ギブスのマジックは、ブッシュの森が、まるで彼らの玄関先にあるかのような身近さをおぼえさせることになった。
メイは、まず、そのキャリアを、他のひとの仕事のイラストを描くことで始めた。最初のうちは、オーストラリアの小道具をあしらいながら、魅惑的ではあるが、ありふれたフェアリーランドの幻想的な光景を描いていたのが、徐々にそれは、純粋なイギリス風のシーンにとってかわるようになっていった。
ゆっくりと完全なオーストラリアのブッツシュのフェアリーランドが、彼女のイマジネーションの中で大きく育ってゆき、それらの生きものたちが、彼女のイラストのなかに、自発的に招かれざる客のように滑り込んできはじめる。ガムナッツの先駆者たちは、まず、1913年に描かれたイラストのなかに見ることができる。翌年、ガムナッツと同じように、野生の花の蕾が象られたイラストの本の栞や若干の本のカヴァーが世に出た。
 軍隊(訳註1)に送られるはがきのシリーズもあったーいまでは貴重なコレクターの品目になっているがー当時は前線でよく見られた光景であった。フランスの泥にまみれた壕のなかや、パレスチナの太陽に灼かれた渇いた大地のうえなどで、戦いで疲労困憊した兵士たちは、赤十字から届いた小包を開き、手編みのソックスや、ウールの帽子と共に、メイ・ギブスのガムナッツのひとりからの可愛いメッセージをよろこんで受取ったのである。

我らはユーカリの実軍団
 さあ戦いに行きましょう
  (ユーカリで、すべてを打ち砕き)          10;7

やがて本の出版が始まる。「ユーカリの実と花のべービーたち」というのが最初のオーストラリアでの本のタイトルである。メイはイラストと文章の両方を書き、その批評的反響は、驚くべきものだった。
 (訳注1:1914年 第1次世界大戦勃発 八月オーストラリアはロシヤに宣戦布告)
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モーリーン・ウオルシュ著「メイ・ギブスーガムナッツの母」高沢英子訳2012・9・10
   
 序:ガムナッツの母
  
-どう言ったらいいか、説明するのはむつかしいことなんだけど、わたしには、わたしが、あの可愛いちっちゃな生きものたちを見つけたのか、それとも、もしかして、ブッシュ・べービーたちのほうがわたしを見つけたのか分からないのよ。
  1968年、メイギブスのインタビューより 

 先住民族のもっていた伝説や伝承に包まれた豊かな土地を植民地としたにもかかわらず、新しい移住者たちは、生まれ故郷の異質の慰さめと独自のファンタスティックな生きものたちへの郷愁を、オーストラリアに持ち込んだ。
 一世紀以上もの間というもの、ブリテンの童話に登場するすべての空想の生きものたちーアイルランドの小妖精レプレコン、ウエールズの水の精ケルピー、スコットランドのお手伝い妖精ブラウニ―、そしてイギリスのいたずら妖精ピクシーたち、仙女、悪鬼たちーこれらがオーストラリアの白人の子供のための標準の読み物だったのである。それらには、現実に彼らを取り巻いている野性的な風景とは程遠い色美しく描かれた優しい花々や、毒キノコが点在する牧場、バラの花に囲まれ、豪華な衣装をまとった仙女がたそがれの淡いパステル調の色彩のなかで漂うトンボの翅に包まれて描かれているという風だった。オーストラリアのこどもたちが、彼らがいまおかれている環境が、真のお伽の国ではないと、きめつけたとしても、驚くにはあたらないことだったのである。

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